【開催報告書】前半Reuters Events主催Pharma Japan 2021KISEKI治験の舞台裏~患者さんの想いが科学的に裏付けられたとき、イノベーションは生まれる~

◆ パネリスト紹介

長谷川 一男氏

NPO法人肺がん患者の会ワンステップ理事長

自身が2010年に肺癌を患った経験から、肺癌のない世界を目指し、上記理事長の他にも日本肺癌学会、ガイドライン委員など様々な団体・コミュニティにおいて精力的に活動している。


中川 和彦氏

近畿大学医学部 内科学教室腫瘍内科部門 教授 西日本がん研究機構(WJOG)理事

がん患者の緩和医療や患者・家族とのコミュニケ―ションの促進による全人的癌治療の実現に尽力。2014年には日本肺癌学会学術集会にて初の患者向けプログラムを実現させた。


地主 将久氏

アストラゼネカ社メディカル本部オンコロジーメディカル部門長

大阪大学大学院医学系研究学科卒業後、米国ダナ・ファーバーがん研究所で免疫チェックポイントに関する研究に従事した。2018年より現職に就く。


◆司会進行役紹介

朝枝 由紀子

Patientricity MedPartners代表。北米大学留学後は医師として大学病院で医療に従事する。その後もっと多くの患者さんの役に立ちたいと革新的な新薬を開発する製薬会社に転職。そこで、患者のための医療であるにも関わらず患者の声が届かない製薬会社の現状に疑問を抱き同社を設立した。



これまで製薬企業と患者やその団体は、間接的な関係がメインでした。しかし近年、米国を中心に「患者中心の医療」、「Patient Engagement」といった患者さんが主体となって医薬品開発に携わる動きが広がりつつあります。今、製薬会社にとって患者さんは治験の対象者から、パートナーへと移り変わっています。そのような中、このKISEKI治験はまさに患者さん主体の医療を実現したPatient Engagementのパイオニアと言えます。


【講演①】

まず始めに語ってくださったのは、NPO法人肺がん患者の会ワンステップ理事長として活躍されている長谷川一男さん。患者の立場からこのKISEKI治験について語っていただきました。


―患者コミュニティにおいて、主体的に医療へ貢献していくという変化を実感。

長谷川さんがこの変化を実感したのは、2018年に開催された第19回世界肺癌学会でのこと。

これまで患者たちが集う患者会における役割は「分かち合い」が主でしたが、この学会においては、それにプラスして主体的に医療に貢献するという目的も見出せるようになったと長谷川さんは言います。

希少遺伝子ごとに患者会が国を跨って組織として活動していることが判明したこの学会。患者が主体的に新薬の開発にかかわるという活動が、治験の加速化に繋がっているのではないかと議論されました。

「特に希少疾患などは、新薬や治験は待っていても出てこない。」

そんな考えにいたった各患者会は自ら行動を起こし、医療の貢献に尽力したと言えます。

長谷川さんはその事実を目の当たりにし、これと同様のことを日本でも実現できないかと考えるようになります。


明報の裏側にあった既存患者たちの【置き去り】

そんな矢先に起こったのが、2018年オシメルチニブ適応拡大の承認。これにより、オシメルチニブが非小細胞肺がんの一部の2次治療でしか使用できなかったのが、1次治療でも使用できることになりました。オシメルチニブは、肺癌治療薬として多くの期待が寄せられた希望の光でした。

そんなオシメルチニブが癌患者である自分たちにも適応される、そう思ったのもつかの間、「すでに肺癌を引き起こした患者には使用不可、今後肺癌となった患者にのみ適応」とされたのです。

自分たちの未来は捨てられたのだろうか、置き去りにされたのだろうか。オシメルチニブ適応拡大の裏側にあった既存患者たちの「置き去り」。


―今こそ、自分たち患者が動くしかない。

あるとき偶然にがん専門医の中川和彦医師と顔を合わせる機会が生まれました。

啓示を感じた長谷川さんは、何とか自分たち患者会でお金を集めるから、適応のない肺がん患者さんたちにも薬が使用できるよう治験してくれないか、懇願します。

こうして、このKISEKI治験は生まれたのです。


患者たち自身が集い、協力し、寄付を募りました。そしてそのたゆまぬ努力は実を結び、製薬会社との契約に成功、そして治験が開始されるという奇跡が起こりました。



【講演②】

次にお話してくださったのは、長谷川さんと出会い、共にKISEKI治験を主導した中川和彦教授。今度は医師の立場から、このKISEKI治験を振り返っていただきます。


―患者さんの切なる願いを聞き、すぐに行動へ移す。

中川教授は、このKISEKI治験の実現にあたり何が必要か事細かにアストラゼネカ社に問い合わせました。繰り返し臨床試験内容を練り、アストラゼネカ社に提案しました。

最初に提案したのが、第1・2世代EGFR-TKI治療後に増悪し、プラチナ製剤で治療した後のT790M陰性の患者さんに対するオシメルチニブの有効性を検証する第2相試験。ただ、これはアストラゼネカ社の開発スコープから外れるとのことで却下されてしまいました。


しかしながら、脳に転移した場合オシメルチニブであれば効果があるかもしれないと、アストラゼネカ社は代替案を提示。その案を基に、第1・2世代EGFR-TKI治療後、脳転移単独増悪についてT790M陰性の患者さんを対象に、オシメルチニブの有効性を検証する第2相試験を提案し、見事アストラゼネカ社に承諾されたと仲川教授は言います。


そしていよいよ運命の日、2019年世界肺がん学会。グルーバル本社のメディカルアフェアーズ責任者であるVice Presidentのベッカーさんと面談の機会があった中川教授は、つい本当はプラチナ製剤治療後に増悪した患者さんでのオシメルチニブの有効性を検証する試験がやりたいといと口走ってしまいます。


「プラチナ製剤治療後の患者さんは抗がん剤の一種であるドセタキセルで治療されるものの、奏効率は10パーセントと低く、無増悪生存期間(PFS)も4か月以下。そんな患者群を対象としたら、オシメルチニブの有効性を示す事ができるのではないか。」 中川教授は続けて言います。


その話を聞いたVice Presidentのベッカーさんは、二つのコホート(集団)で1試験をやったらいいのではないかと承諾。その場で、最初に提案した試験を組み込み、2コホートを合わせて臨床試験を行うという意思決定がなされました。まさに急転直下の出来事です。


治験が開始され、患者会の皆さん、そしてWGOJ(西日本がん研究機構)の15施設が積極的にこの取り組みに参加してくださり、最初にやりたかったコホート2の患者登録を、予測よりも2年も早く、わずかたった5ヶ月で成し遂げました。コホート1も予定より早く患者登録が進行中だと中川教授は言います。


通常、製薬会社がやりたいことと、患者さんにとっての利益が重なった時に試験が開始される中で、このような製薬会社と違ったスコープを突いた試験はそんなに無い、と中川教授は言います。


そして中川教授は、そのような試験が実現された背景には、患者さんの想いが科学的に裏付けられたからだと断言しました。


次に、そんな中川教授・長谷川さんらに協力し、このKISEKI治験を実現させたアストラゼネカ社の地主さんに、語っていただきます。


【講演③】

製薬企業が医師主導試験を支援する際、必ずしも全てが患者ニーズを基にしているわけではないと、地主さんは前置きしました。


―患者団体の提案を叶えるために必要なこと。

患者団体からの提案を社内で検討する際は①現状の医療環境を鑑みて、国内におけるアンメット・ニーズ案件であること②先行研究から積み上げられたエビデンスから、実証される価値のあるエビデンスであること、この二つが遵守されるポイントだと地主さんは語ります。


―今後、製薬会社が目指す姿とは

地主さんは、患者ニーズを直接くみとれる研究が今後あるべき方向性だと述べました。

早期のGrand Strategy策定期に患者の声を反映するスキームを取り入れることで、より患者ニーズを反映した開発・市販後戦略が可能になると考えられます。


なぜ製薬会社が新薬を開発し、届けているのかという原点に立ち返り、そのために、医師主導試験のサポートに係る標準的なクライテリアを形成していくことが重要であると、締めくくりました。


【ディスカッション】

―こんなにも早いスピードでKISEKI治験の患者登録が進んでいる背景は何か。

患者会からの提案であり、オシメルチニブに対し強い期待と想いがあったことから社会的意義・ニーズがあるとみなされたことがまず一つ目だと中川教授は指摘されました。また、全国にある15施設の実施者側と患者側の協力体制がマッチしたことが、二つ目に挙げられると述べました。


この治験を求めている患者さんが本当に多かったこと、それに尽きると患者側の視点から長谷川さんも同調しました。


―このKISEKI治験のスピードを製薬会社側はどう受け止めているのか。

なかなかこの患者登録は進まない事例が多い中、地主さんは自身のメディカルアフィアーズにおける長い経験の中でもこのKISEKI治験はトップレベルのスピードを誇ると言います。

このKISEKI治験を取り巻く人々―製薬企業側の人も含めて―の情熱や熱意が、このようなスピードに繋がったと地主さんは述べました。


―企業主導治験におけるリソース、プロセス、コスト面など、患者登録における苦労について

癌は細分化されているので、対象となる患者集団はどこも希少となってくる。そういう分野では、患者会が治験情報をしっかり拡散し、情報として届けていくことが、治験が大きく進む一つの大きな要素だと中川教授は言います。


―KISEKI治験を実施してからの社内の変化について

地主さんはこれが好機になったと言ってもいいくらい、患者さん中心に何かできないか考え、プロジェクトを進めることが増えたと述べました。

患者さんの声を実際に聞いたり、会社に来ていただいたりなどして、患者さんにとって価値や必要があるか分析する機会が増えたとのこと。そして、肺がんだけでなく乳がんなど他の癌腫にも影響を及ぼしたとのこと。


地主さんは、「このKISEKI治験は私たちにとって、とても大きなインパクトを与えてくれた。」

「KISEKI治験は一つの成功例として今後の活動に生かしていきたい。」と言葉を強めました。


―患者会における変化について

このKISEKI治験を知った他の患者会の方々から、「自分たちもやりたい!」と声を頂いたという長谷川さん。

レールがない中で始まったこのKISEKI治験でしたが、それがどんどん周りの方々の協力の下、レールとして出来上がっていったことを実感したと長谷川さんは語りました。「奇跡」が「軌跡」に変わる瞬間です。


ー中川教授より、製薬会社へ

中川教授は、世界の製薬企業のほとんどは“Patient First”を掲げているものの、なかなかそれを行動に移せていないと指摘します。

キャッチフレーズとして掲げるだけでなく、目に見えるこの“Patient First”精神を表現する行動をとっていただきたいと、未来の製薬会社に希望を託しました。








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